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深夜のゲームセンターは人の出入りが少なく、いつもと変わった妖しい雰囲気を醸し出している。
手を繋いで一つのUFOキャッチャーの前で立ち止まる私達は端から見ると完全に恋人同士そのもの。
「美春ちゃん。欲しいのあったらなんでも取ってやるよ」
「ほんと? じゃあね、このぬいぐるみが欲しい! 今うちのクラスで流行ってんだよ」
「へー、このブサイクな顔したウサギが?」
女ってたまに訳分かんないもん好きだよな、と軽い悪態つきながらも早坂くんはお金投入口にチャリンと硬貨を落とした。
そして絶妙な角度でアームを操作すると、なんと一発で目当てのぬいぐるみを掴んで見せたのだ。
「凄い凄い! 仁くんって何でも器用にこなすのね! こういうのを器用貧乏っていうのかな?」
「いやそれ使い方違うから。何にでもあちこち手を出しては結局どれも中途半端になっちゃう人のことをそういうんだよ。分かった?」
「さ、流石学年首席は物知りだね……迂闊な発言には注意しないと」
「……俺美春ちゃんに学校の成績について話したことあったっけ?」
ーーしまった。なまじ勉強が出来る上、記憶力のいい彼はこんな些細な会話にも引っ掛かりを感じてしまう。
「えーあったよ覚えてないの? ほらえっと、外で会うようになって少し経った後に! それよりあっちに対戦ゲームあったよね。行こう仁くん」
これ以上はヤバイと察知して、無理矢理話題を終わらせる。まだ納得していない表情の早坂くんの手を引いて私は店内を移動したーー。
思う存分娯楽施設を堪能した後、いつもの決まった場所で別れる際、「あのさぁ」と不穏な響きを持たせる声色で早坂くんは言葉を放つ。
「美春ちゃんの通ってる高校ってこの近辺なんだよね。でもよくよく考えてみるとこの辺りって俺が在籍してる共学校以外に男子校しかないんだよね」
「え、そ、そうだっけ?」
「となると君の素顔がますます分からなくなってくる」
ーー君は一体何者なの?
耳元で囁くように言われ、全身がブルリと震えた。
唖然と口を開ける私を前に、彼は立て続けに酷く妖艶な微笑みを浮かべて言い放つのだ。
「気になる女の子のことはなんでも知っておきたい。ただそれだけの話だよ」
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