真夜中のシンデレラ

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 ーー彼の探求心を少々甘く見ていたようだった。  好きな人のことはなんでも知りたい。  それは何も可笑しくない素直な理由。  お昼休み、私は友達に誘われて購買部に向かう。  行きのエレベーターの中はかなり混雑しており、定員人数ギリギリだった。  周囲に誰が乗っているかなんて把握していない状況下で、友達との会話を続ける。 「5時間目って家庭科でしょ? 裁縫苦手なんだよなー」 「まあまあ。コツ分かってくると案外楽しいよ」 「小春はなんだかんだ言って裁縫も料理も得意じゃん。勉強は苦手だけど。私こういうのなんていうか知ってるよ。器用貧乏って言うんだよね」 「ノンノン、諸君、使い方が間違っていますことよ。器用貧乏とはなんでも出来るが故に色んなことに手を出しちゃうんだけどなんやかんや途中で終わってしまう半端者を指すんだって」 「へー小春博識~」 「ドヤッ」  得意気な顔をして胸を張っていたら、背後からプッと堪えず吹き出したような笑いが聞こえた。  すっかりここがどこなのかを忘れていた。  この低レベルなやり取りを誰かが聞いていたかと思うと今すぐ穴があったら全身を覆い隠す勢いで埋めて欲しい。 「ところで小春、好きな人とはどうなったの? なにか進展あった?」 「いやないって。だって私だよ? 彼みたいな優れた人間に、私じゃ役不足だって」  友達にすら堂々と名指しで好きと言えないんだ。  身の程を知れと、鼻で笑われるのは目に見えているからだ。  降りる階になってエレベーターからぞろぞろと人が散らばって出ていく。  そのずっと後ろで、一人肩を震わせて笑いを噛み殺している男がいた。隣にいた友人が「お、おい……?」と恐る恐る声をかける。 「や、役不足って、自画自賛してるじゃねぇか。ははっマジウケる……ッ」 「え、いや、仁?」  腹を抱えて笑う男、早坂仁は友人に奇妙な目で見られても構うことなく喉元をクツクツと鳴らして愉悦に浸っていた。  
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