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「早速ですが、お二人のなれそめを教えてください」
「それ、私も知りたいです!」梨乃に追随するように琴子も叫ぶ。
「そんな、たいしたことじゃないよ。彼とは同じ演劇サークルなの。だからね」
「へぇ~宮内さんもお芝居するんですね」
「まぁね。芝居をするのが好きなんだ。でも、だからといってプロになろうとは思っていない。自分の実力は分かっているつもりだからね。あくまで趣味としてやっているんだ。しかしもう三年生だから芝居は卒業だね。僕の夢は博物館の学芸員だから、そっちに力を入れないと。それに比べて由紀はすごいんだよ」
そう言うと巧は由紀の凄さを語り出した。演技経験のない二人には、少しわからないところもあったが、とにかく由紀がすごいという事だけは分かった。巧は彼氏だからではなく、客観的に女優としての由紀を褒めていた。
その話を聞いていたら、突然琴子がこんなことを言い出した。
「そこまで言われたら、由紀先輩のお芝居が見たくなりました」
「うん、私もそれ思った」
梨乃と琴子は、由紀に熱い視線を送る。戸惑いの表情を浮かべる由紀。それに対して巧はうれしそうに笑っていた。自分の熱い想いが通じたからだろうか。
「よし、ならば仕方がない。背に腹は代えられないからね」
由紀はそう言ってチケットを二枚取り出した。それを二人に差し出す。
「劇団ってお金がないんだよね。だから団員は営業もしなくちゃならない。梨乃ちゃんたち、ぜひチケットを買ってください」
「僕もときどき買わされるんだよね」と巧は肩をすくめる。
「嘘つき、いつも喜んで買っているくせに。そんなことはいいのよ。梨乃ちゃん、琴子ちゃん、買って下さい。あと固定ファンになってくれたら更にうれしい」
テーブルに額がつくほど頭を下げる由紀。それには梨乃も琴子も慌てるしかない。そして劇団員の苦労を知るのだった。
「もちろん買います。ね、琴子?」
「うん、もちろん」
財布を取り出しチケットを購入。由紀も懐が潤ったかのようなほくほく顔へと変わる。そんな彼女に梨乃が素朴な質問をした。
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