第一話 夢へと繋ぐラピスラズリ

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「こういうチケットって親や親せきにも買ってもらうんですか? ノルマとかがあって、残ったら自腹とかよく聞きますから」 「うちはそういうのは無いよ。売れるに越したことは無いけど、固定客もいるし、支援してくれている人もいるから。恵まれている方だと思う。それに演劇のことはあまり言ってないの。特に父親には内緒にしてる。絶対反対されるに決まっているから」 「そうなんですか……」 「頭の固い親だもん。母も内心ではよく思ってないだろうし」  由紀の顔が次第に険しいものへと変わっていく。親が反対するのはよく聞く話で分からないことも無い。親の気持ちも分かるが、梨乃が由紀先輩と同じ立場なら同じような気持ちになるだろう。  いろいろと思い出したのか、由紀が盛大なため息をつく。そんな彼女を落ち着かせるように、巧がポンポンとその肩を叩いた。 「あんまりご両親のことを悪く言うもんじゃないよ。由紀のことを心配しているだけなんだから」 「分かってるけど、分かっているけどねぇ?」 「うん、由紀の気持ちも分かる。大きな仕事でも入れば見返せるけどね」 「そんな甘い世界じゃないよ」  もう完全に機嫌を損ねた由紀に、巧はやれやれとため息をつく。そして梨乃たちにこう言った。 「この話をするといつも機嫌が悪くなるんだ。ごめんね」 「いいえ、いいんです。由紀先輩の気持ちも分かりますから」 「由紀先輩、舞台見に行きますから!」  空気を変えるような明るい声で琴子はそう宣言した。大きな声だったので、食堂にいる他の人たちが何事かとこちらを見る。由紀もびっくりして琴子を見るが、不機嫌だった顔は笑顔へと変わった。 「ありがとう、ぜひ見に来て」  琴子のおかげで由紀の機嫌は元通りに。その後は四人楽しくおしゃべりに講じたのだった。  そして週末。梨乃と琴子の二人は、由紀が出る芝居を見に県庁所在地へとやってきた。大学があるあの静かな町とは違い、やはりちょっぴり都会である。静かな田舎町に慣れているせいか、街の喧騒がうるさく感じた。
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