第一話 夢へと繋ぐラピスラズリ

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 由紀が所属する劇団『感情線』は小さな劇団らしい。それでも由紀も言っていたように熱烈なファンもいるらしく、梨乃たちの期待も膨らむ。  公演が行われるのは本当に小さな劇場。劇場と言うよりかは、大きめのライブハウスと言った方が正しいかもしれない。  その劇場の客席は、開演間近だというのに半分ほどしか埋まっていなかった。しかし町の小さな劇団と考えると、そこそこ入っているとも言えなくはない。  梨乃にとって、これが初めて見る舞台だった。それは琴子も同じなようで、表情はワクワクといった感じである。梨乃もやはりまだかまだかとソワソワしてしまう。  開演のアナウンスが掛かった。待ちに待った由紀の舞台が始まる。ドキドキ感が最高潮に達する。  舞台の内容はよくあるサクセスストーリーだった。梨乃は一応舞台を見ているが、琴子はまぶたが落ちそうになっている。これで評価のほどがわかるだろう。  ここで梨乃は客席に目を向けた。真剣に見ている若者、つまらなそうにしているおばさん、寝ている男性に、涙を流しているサラリーマン風のおじさんと様々。感受性は人それぞれという事がよく分かる客席風景だった。そこから言えることはそういう舞台、人を選ぶ舞台という事だろうか。  閉演後、二人は由紀に軽く挨拶してから劇場を後にした。そして今、二人はカフェにいた。話題はもちろん舞台についての感想である。梨乃はアイスコーヒーをかき混ぜながら、言いにくそうにしつつも感想を述べる。 「う~ん、はっきり言って面白くなかったね。独特な世界観ではあったけど。でも由紀先輩が上手いのだけはわかったよ。感情が入っているというか、魂が入っているっていうのかな。他の団員たちももちろん上手いんだけど、由紀先輩は抜きん出ているって感じだよね」 「うん、それは私も思ったね。目を引くというか……。でもさぁ、面白くないのは脚本が悪いんだよ。サクセスストーリーはいいんだけど、見せ場が少ないと言うか単調と言うか……ありきたり過ぎて、もう一ひねり欲しいよ。それにあの独特な空気もついていけないし」 「琴子、辛辣だね」 「こういうのははっきり言わないとダメなんだよ」
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