プロローグ

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 二階建てのその洋館は、海外映画に出てくるようなお洒落な外観、黒ずんだ汚れさえも一つのアートのように荘厳な雰囲気を醸し出している。二階部分にはアーチ形のバルコニーがあり、絵に描いたような素敵さだった。  わびしい商店街から少しわき道に入っただけなのに、こんなに素晴らしい建物に出会えるとは。思わず梨乃の口から感嘆のため息が漏れる。  そして吸い込まれるようにその洋館へと足を踏み入れていった。  梨乃は、初めて行く所には緊張するタイプ。不思議なことにこの時は何のためらいも起きなかった。それを上回る何か、惹かれるものがあったとしか言いようがない、そんな気持ちだった。  玄関には、オープンと書かれたプレートがかかっていた。重厚な玄関ドアをおそるおそる開けてみる。  梨乃は覗き込むようにして、中へと足を進めて行った。少し照明が薄暗い。それでもすぐに目に飛び込んできたのは、部屋の真ん中にある大きなテーブルで、その上には色とりどりのアクセサリーが並んでいた。よく見ると壁際は棚で埋め尽くされ、パッと見ただけではよく分からない石が飾ってある。水晶の塊や、何かの宝石の原石。ハンドメイド用なのか、加工された石そのものが何種類も置いてあった。その光景から、ここが石専門店なんだと嫌でもわかる。圧巻の眺めに梨乃の足が止まってしまう。高級宝石店とはまた違う、凄さと迫力がそこにはあった。  梨乃はその迫力にしばらくほうけていたが、ハッと我に返る。そして、アクセサリーが嫌いな女の子はいないだろう。今度はまるで惹きつけられるかのように、駆け足でアクセサリー類が並べられたテーブルに近づいていった。  ネックレスからブレスレット、ピアスなど様々で、そのどれにもいろんな石が付いていた。赤や青や黄色に緑、とにかくカラフルでデザインも可愛らしく、見ているだけでもうきうきしてくる。  テーブルの奥にはレジがあり、さらに奥には喫茶店のようにテーブルと椅子がいくつか置いてあった。あの場所で、ゆっくりお茶でも飲めるのだろうか。
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