プロローグ

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 しかし今は誰もいなかった。店員の姿さえ見当たらない。梨乃は不用心だなぁと思いつつも、並べられている商品を眺める。そして手に取っては自分に似合うだろうか、いくらするのだろうかと確かめながら、いつしかアクセサリーに夢中になっていた。  時間を忘れるほど夢中になっていたのか、そばに人がきていることさえ梨乃は全く気づかなかった。 「お気に召したのがありましたか?」  後ろから男性の声が降りかかる。突然声をかけられて驚く梨乃。  そばに立っていたのは、整った顔立ちの男性だった。あまりにも綺麗なのと、髪が少し長めなので、梨乃は一瞬女性かと思ってしまった。しかしよくよく見ると男性だと分かる。それでも中性的な顔立ちなので、化粧をしてスカートでもはけば、きれいな女性に変身できるだろう。 「す、すみません。勝手に入ってきて」 「いいえ、いいんですよ。ここはお店なんですから」  微笑みを浮かべて立つその店員さんは、本当に綺麗だった。背も高く、足もすらっとしていてまるでモデルのようである。白いシャツに細身のジーンズ。例えとしては変かもしれないが、そう宝塚の男役のようなかっこよさと美しさがあった。  店員の男性に見惚れてしまう梨乃。自分もこれぐらい綺麗だったらとついつい思ってしまう。もはや異性として見られないほどである。  あまり見つめるのも悪い気がして、目をそらしながら梨乃は尋ねてみた。 「ここは天然石専門店って看板に書いてありましたけど……」 「そうですよ。宝石やパワーストーンを扱うお店なんです」 「へぇ~とてもきれいですね」  色とりどりの石に再び目をやる。すると店員さんが突然不思議なことを聞いてきた。 「綺麗な石には、不思議な力が宿っていると昔から言われていますけど、お客さまは信じますか?」
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