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「う~ん、突然言われても……。でも、ちょっと疑ってしまいますよね」
「まぁ、普通はそうですよね。私も正直に言いますと半信半疑なんです。この店の店長なのに、ダメですよねぇ? でも、信じたい気持ちはありますよ。そういう考え、素敵じゃありませんか?」
「お店の店長……? えっと、もしかして、このお店の店長さんなんですか?私はてっきりアルバイトの店員さんかと」
「一応店長です。まぁ、私一人しかいない店ですけどね」
「なんか、すみません。でも、すごいです。若いのにお店を持ってるなんて」
きらきらした目で店長を見る梨乃。店長もまんざらでもないのか、嬉しそうに笑っていた。
「では、ごゆっくり」
そう言って店長は奥に引っ込んで行った。美しい店長に驚きはしたが、梨乃は再び並べられた石たちを眺め始めた。綺麗な石はいくら見ていても飽きることはない。
「あぁ~こんな店で働けたらなぁ……」
「では、働いてみますか?」
「うわぁ!」
大きな独り言は、店長に聞かれていたらしい。奥に引っ込んだはずの彼は、再び梨乃のそばに来ていた。全く気付かなかった彼女は、恥ずかしさから顔が赤くなる。
この店長、気配を消すのが得意なのかもしれない。しかし彼からの思いがけない提案は、梨乃にとって願ってもみないことだった。
「本当にいいんですか?」
「はい。女の子の店員が欲しいなぁと思っていたところだったんです。近々、バイト募集の紙を張りだそうかと。こういう店なので、やはり女性がいた方がいいかと思いましてね。今は店にお客さんはいませんが、経営の方は大丈夫なので、バイト代はちゃんと出ますからね。と言っても、特別多いわけじゃありませんけど」
何という幸運だろうか。梨乃はうれしさで舞い上がりそうになる。散歩ついでにバイトも探していたので、これは渡りに船だった。
梨乃はすぐさま返事をする。念願の初バイト、これも何かの縁だろう。店主は石には不思議な力があるかもと言っていたが、これは石が繋いでくれた縁なのかもしれない。
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