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「そうそう私、今演劇にハマっているの」
「演劇ですか?」
琴子もそれには興味を引かれたのか、むくっと起き出した。
「うん。演劇サークルに入ってるし、町の劇団にも入っているの」
「それは本格的ですね。高校の時、演劇に興味があるなんて一言も言ってなかったのに、びっくりです。将来は女優さんですか?」
「そうなれたらいいなぁとは思っているんだけどね」
「本気なんですね」
「うん」
望んだからといってなれる世界ではない。由紀はそれを十分理解しているのか、苦悶と覚悟が混じった表情だった。それがむしろ、彼女が本気であると思わせる。梨乃も心から応援したい気持ちになった。
「頑張ってください、先輩。もし由紀先輩が女優になったら、知り合いに自慢できますから。あと、サインもくださいね」
「もう、なにそれ」
ちょっとふくれる由紀。それでもどこか嬉しそうだった。
そのあとは琴子も加わり、女子の会話で盛り上がる。大学生活のことや好きな男性のタイプ、恋バナはやはり欠かせない。
すると由紀は、琴子の背後に誰か見つけたのか、大きく手を振りその人を呼ぶ。
「ちょうどよかった。おーい、こっちこっち」
梨乃たちのもとに一人の男性が近づいてきた。すらりと背が高く、さわやかな顔立ちをした人だった。由紀は彼を二人に紹介する。
「この人は宮内巧さん。三年生で考古学、特に古代史のエジプトやチグリス・ユーフラテス地域を学んでいるの。そして、私の彼氏です」
「はぁ~」「おぉ~」
よく分からない歓声を上げる梨乃と琴子。由紀は少し照れている。紹介された巧は笑顔で二人に挨拶する。
「はじめまして、宮内です。由紀がお世話になっています」
「いやいや、そんなことは……。私は相沢梨乃です。由紀先輩の高校時代の後輩です。そしてこの子が小野寺琴子。私の友達です」
「小野寺です。よろしくお願いします」
「うん、よろしく。僕も座っていいかな?」
こうして四人、テーブルを囲っての楽しい時間となった。こうなると、話はもちろん由紀と巧のことになる。梨乃はニヤニヤとからかうような笑みで二人に質問する。
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