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「あれ、ウミ」  階段下の廊下を通りかかったのは、クラスの女子の瀬川だった。肩にかかる髪に、中くらいの背丈、成績も運動神経も普通、だと思う。  そんな瀬川は、なぜか俺の苗字、海野を省略してウミと勝手に呼んでいた。他のクラスメイトはウミノってちゃんと呼ぶのに。特に仲いいわけでもないのに、距離感が変なやつだった。  なぜか瀬川はそのまま階段を上がって来て、俺の隣に腰掛けた。  普通、わざわざ近くに寄って来るか? 「なんだよ、一人でくつろいでんのに」 「いいじゃん、別に」  瀬川はにこにこと笑う。  おせっかいで面倒くさいやつだなと思う。俺はひとりでいるのが好きなのに。 「何読んでたの」 と、俺の膝の上を指さす。そこにあるのは、最新号の映画雑誌だ。 「あ、これ? 映画の雑誌だけど」 「ふぅんウミは映画が好きなんだぁ。何が好きなの」  瀬川はにこりと首をかしげる。髪がはらはらと肩から顔にかかる。  なんかそういうところ、人懐っこいんだよなぁと思う。新しいクラスになって四か月。ときどき、瀬川はこうして話しかけて来る。 「SFかな。今度、新シリーズが公開になるから」  パラパラ雑誌をめくりながら言うと、瀬川は信じられないことを言った。 「私もその映画、気になってたんだぁ。一緒に見に行こうよ」 「は? なんで」  ひとりでの映画鑑賞の時間を、邪魔されるのはさけたかった。 「だって、女子でSF観たいって人少ないんだもん」 「ひとりで行けばいいんじゃない」 「やだよ。さみしいもん」  女子ってめんどくせ、と正直思った。瀬川の言っていることの意味が分からない。 「……じゃあ他の男を誘えば」 「映画にちゃんと興味持ってる人と行く方が楽しいじゃん」  だからって、特別親しいわけじゃない俺をなんで誘うんだ?
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