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巷にはパワースポットがあふれている。
週刊誌にはミス××大学の麗らかな笑顔とともに御利益のあるという神社仏閣が載っているし、観光誌には大自然に「癒されちゃおう」という決まり文句が綴られている。SNSには「○○に会うと元気が出る!」という人間パワースポットの報告まである。
ひとは心のどこかで、「何か」を求めているのだろうか。
「△△の母」というご当地占い師の店には連日多くの人が押しかけ、
テレビでは有名霊能者がタレントの前世や運命について熱く語っている。
人にはオーラがあって、
家には小さなオジサンが現れ、
写真を撮ればオーブが映り込む――
というのは、もはや常識の範疇になっているようだ。
史書をひもといてみても、かつては魑魅魍魎が跋扈していたそうである。
侍に斬り殺される鬼の話や、子供を食い殺す山姥の話は枚挙に暇がない。
この国には八百万の神々が住んでいるし、人は死んだらみな仏さまになる。
お正月には神社へゆき、盆暮れには祖先の墓を参る。
節分で鬼に豆を投げつけたかと思えば、ハロウィンではお化けにお菓子をやる。
こうしてみるとわたしたちは、「何か」と存外暢気にやっているようだ。
十七歳の深渕脱兎にとっても、それは同じであった。
何となく知ってはいるが、そこまで興味もない「何か」。
霊感のかけらもない深渕にとって、それらは「おとぎばなし」と変わりなかった。
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