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「ハァイ、深渕クン。ご機嫌よう」
すらりと伸びた女の足に、深渕は顔面を踏みつけられていた。
「…………」
なあんだ交通事故か、と深渕は思った。
意識が遠のいたのは、後頭部に衝撃が走ったからである――
仰け反ったときに女の顔がちらりと見えたからには、飛び膝蹴りを喰ったのだろうか?
だが、転校して間もない学校で、友人どころか知り合いさえいないこの学校で、飛び膝される覚えはないし、暴力の横行する学校かといえばそうでもなく、自由ではあるが節度を保っているように深渕には見えていた。
だからきっとこれは、不運な事故――
何か驚異的なことが起こって、運悪く、女が膝から飛びかかってきた――
としか考えられなかった。
何にせよ、深渕の身体はもんどりうって廊下に叩きつけられていた。
「『見ぃつけた』と言うべきよね、深渕クン」
女はゆっくりと足指を動かして、深渕の輪郭を歪ませる。
ご丁寧に上履きは脱いでいるので、ソックス越しに女の冷えた体温が伝わってくる。
もし事故であるならば、今なお女が顔を踏みつけている説明がつかない。
この状況は何なのだと自分に問いただしてみても、さっぱりわからないとしか返せなかった。
いや、ひとつだけ、わかることがあった。この声だ。
女の顔を見ることはできないが、声には聞き覚えがあった。
全校集会で何度も聞いたことのあるこの声は、
生徒会長・宮家輝美のものであった。
頭脳明晰にしてスポーツ万能、おまけに眉目秀麗という鋼のような女である。
「先輩……これはどういう……」
深渕はようやく声を絞り出した。
「あら、『かくれんぼ』は鬼が隠れた人を見つけるゲームでしょう?」
宮家は、恬淡にこたえる。
毫も動じない彼女からは、高潔ささえ感じられる。
「鬼ごっこ、ですか……?」
ますます意味がわからなくなる深渕。
宮家とそんな遊びをはじめた記憶もなければ――そもそも一度も会ったことがない。一つ上の学年の、ましてや生徒会長と、会話をする機会も、気も、まったくないのだった。
「3ヵ月」
「はい?」
宮家は指を3本立てて、深渕に突きつけた。
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