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「3ヵ月よ。わたしは3ヵ月ものあいだ、あなたのかくれんぼに付き合っていたの!」
「3ヵ月……?」
そう言われて深渕が思い至るのは、この学校に転校してから、ようやく3ヵ月が経ったかなということである。
ただでさえ目立ってしまう転校生という自分を、どうやって周囲に馴染ませるか、そればかりを考えていた。
最初は難しかったが、それでも何とか以前のような、平穏な居場所を作ることができた気がしていた。
今だって教室移動のためクラスメイトの最後尾からさりげなく着いていっていたところである。
久方ぶりの平穏を噛みしめながら階段を降りきった矢先――
宮家に踏まれたのである。
「わたしの眼から3か月も逃れるなんて、不可視くんというあだ名をプレゼントしたいくらいよ深渕クン。このまま誰の目にも留まらなかったら、深渕クンは自分の一生をどうするつもりだったのかしら? いつか自分でも、自分が何者かわからなくなっていたかもしれないのよ。だとしたら、わたしが深渕クンを見つけたことは、とても意味があることだと思うのだけど――どうかしら、深渕クン」
嬉しいのか、それとも怒っているのか、宮家はまくし立てるように言った。
身に覚えのないことを咎められているようで、深渕も良い気はしない。
「人違いですよ先輩。ぼくは先輩とお会いしたことも喋ったことも――うぐっ」
言い終わるよりも早く、宮家の足に力が籠められた。
「その可能性も検証したわ。でもNO。あなたが深渕クンであるという自覚があるのなら、これは現実に起こった出来事で、深渕クンが受け入れなければならない事実なの」
この迂遠な言い回しに、深渕はよりいっそう訳がわからなくなるのだった。
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