魔王討伐完了後の勇者生活

魔王討伐完了後の恩賞

『カチャッ』『トスッ』

『王太后陛下は、何か仰せになられていましたか？。マリアンヌ』

魔王討伐の旅の途中で入手した魔剣を腰から外して、長椅子に腰掛けた私が尋ねると。王城の侍女が着る制服を着用している、旅の仲間のハーフエルフの女性であるマリアンヌも、私の向かい側の長椅子に腰掛けて。

『トスッ』『短期間で覚えた割りには、上出来の礼儀作法だったと誉めていらしたわね』

マリアンヌの報告に私は頷いて。

『平民出身の元勇者にしては上出来だと、認めて下されたようですね』

私の感想に、マリアンヌも同意の頷きを示して。

『国王陛下がクリストファーを伯爵位の貴族にして下されたのは、御生母であらせられる王太后陛下の働き掛けが大きいものね』

私は王城の客室の壁に掛けてある、王国の地図に視線を向けて。

『魔王討伐と言えば聞こえは良いですけれどね。私やマリアンヌ達旅の仲間で、魔王四天王の二人までを倒した時点で、四天王の残りの二人がもう自分達の主君の魔王は終わりだと見限り、極秘裏に私達勇者一行に講和を持ち掛けて来たので。私達が魔王城に攻め込む際に、魔王軍の残存兵力は私達の邪魔をせずに、主君である魔王が討ち取られるのを黙認した上で。魔王軍が占領した地域からの全面的な撤退という条件で、講和を結んだだけですからね』

マリアンヌも、壁に掛けてある地図を見ながら頷いて。

『クリストファーが国王陛下から下賜された、魔王に滅ばされた隣国の旧領は。撤退した四天王の生き残りの二人が、魔王領を東西に分割して治めている、魔族の領域に境界を接しているから。王太后陛下としても、魔王の下で四天王をしていた二人に睨みを利かせて牽制が可能な人材であるクリストファーを、領主とするしか選択肢が無かった面は大きいわね』

私は向かい側に座っている、マリアンヌの目を見ながら。

『東洋に伝わる言葉に。狡兎死して走狗烹らるという物があるそうですね。獲物を狩り尽くした猟犬は不用とされるという意味ですけれど。その点私達は、魔王軍の四天王の二人が生き残ってくれている上に、東西に分割されたとはいえ、一定の戦力を未だ維持しているので。粛清されずにすんでいますからね』

マリアンヌも、真剣な表情を浮かべながら。

『敵を根絶やしにしないのが、勇者の生き残る唯一の方法なのは間違いないと。私も考えているわクリストファー』