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『カランッ』『いらっしゃい。おうっ、クリスか。いやっ、御無礼致しました。クリストファー・フォン・ソリュード伯爵閣下』
王城を後にした私は。王都の裏通りにある、酒場と宿屋を兼ねている、冒険者の店の店内を見回してから。
『レムリア王国の、王侯貴族の方達が居ない場では。今まで通りにクリスと呼んで頂けると、嬉しく思いますね。親方』
冒険者仲間からは、親方の愛称で呼ばれている、熟練の冒険者だったドワーフの男性は。私の言葉に髭面を綻ばせて。
『そう言ってもらえると嬉しいぜクリス。冒険者出身で、伯爵の爵位を授与されたのは俺が知る限りではクリスが初めてだが。レムリア王国の騎士の身分を得た元冒険者の中には、騎士になった途端に、昔の仲間を見下す奴も居たからな』
親方はドワーフですから、人間の私よりも寿命が長い種族の分、様々な経験をされて来たのだと思いますね。
『『マリーッ』』
『『アニーッ』』
『ビュンッ。ダキッ』『心配をしていたのよマリー。王城で酷い事をされなかった?』
冒険者の店の奥から出て来たドワーフの女性が、私の旅の仲間のハーフエルフのマリアンヌに勢い良く抱き付くと。マリアンヌも、ドワーフの女性を抱き返して。
『ええ、大丈夫よアニー。心配をしてくれありがとう♪』
『当然よマリー♪』
私は抱き合っている、旅の仲間の女性の二人を後方に残したまま。店のカウンターの席に腰掛けると。
『肉団子入りのシチューをお願い出来ますか、親方。王城で出された食事を食べる際には、食器の動かし方を間違えてはいないか確認をしながらだったので。食べた気がしなかったので』
経験豊富な熟練の冒険者だった親方は、私の態度に苦笑を浮かべながら頷いて。
『ああ、直ぐに用意をする』
『ありがとうございます。親方』
私は親方が肉団子入りのシチューを準備している間、後ろで抱き合っている旅の仲間の女性二人の様子を、無表情に眺めていましたが。
『マリアンヌも、親方特製の肉団子入りのシチューを食べますか?』
二人が離れるの待ってからマリアンヌに尋ねると、マリアンヌは私の方を向いてから頷いて。
『ええ、私も頂くわねクリストファー』
私とマリアンヌの二人は、お互いの事を愛称のクリスやマリーでは呼びませんが。初対面の時からのお互いに対する呼び方が、変わらずに固定化しているだけですね。
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