第三章 ソリュード伯爵領編

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『クリスは何で“あれ”を側に置いているの?』 今まで黙っていた、私の大切な旅の仲間である、勇猛果敢なドワーフの戦士であるアニーが。デイヴィッド・フーシェ家宰がグルーノ女王国の使節団に応対をする為に部屋から退出をして。室内に居る私達以外の気配が完全に無くなってから尋ねて来たので。 『理由は複数ありますけれどねアニー。最大の物は、緩衝材の役割ですね』 『緩衝材?』 私の言葉の意味が判らずに、アニーが不思議そうな表情を浮かべると。アニーとは別の理由で黙っていた私の政治面での理解者であり、アニーの恋人であるマリアンヌが。 『アニー。今この部屋に居るのは、全員クリストファーの領地である、小王国以外の土地で生まれた人達でしょ』 ハーフエルフの恋人であるマリアンヌに言われて、ドワーフの部族出身のアニーは。エルフの集落生まれのマリアンヌに。大陸中を放浪している間に、生まれ故郷と本名を忘れた小人族の盗賊のホビーに。レムリア王国のロデリック男爵領生まれの、勇者クリストファー・フォン・ソリュード伯爵である私と。ヨハン・シュトラウス騎士隊長である、ヨハンの顔を順番に見てから。納得した表情を浮かべて。 『クリスが支配をしている、小王国の住民だった領民が、レムリア王国生まれのクリスに反感を抱かないように。小王国で宰相をしていたフーシェ家宰を雇っているんだ』 アニーに感想に、ホビーが楽しそうに笑いながら。 『家畜の羊が、新しい飼い主に慣れるまでの間。前の飼い主が使っていた牧羊犬をそのまま使って、新しい飼い主のやり方に順応させている訳だよね♪』 ホビーの遠慮の無い言い方に、私は苦笑を浮かべながら。 『ソリュード伯爵領の領民は、今は魔王軍の占領から解放をしてくれた私に対して感謝の気持ちを抱いていますけれどね。どのような感情も、永続する事は決してありませんから。徐々にレムリア王国方式の統治に、ソリュード伯爵領の領民には慣れていってもらう必要がありますけれど。その際に、表向きは新しい支配者である私が、小王国の歴史と伝統と慣習を尊重しているように見せ掛けるのには。我が忠臣であるデイヴィッド・フーシェ家宰は最適な人材ですからね。まあ、本人は、自らの行政能力の高さを買われての重用だと思っているようですけれど。本人がそう思い込んでいるのですから、夢を壊す必要はありませんからね』
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