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「これはまた、随分と派手にやられてしまったようで」
ランタンを手にした一人の人間が現れた。
けれどもその人物は手にしたランタンの淡い黄色の灯りよりも、中天に浮かぶ白い満月に照らされた真っ白な人間に見えた。
これだけの矢傷だ、自分が襲われる危険がないと判断してなのか、大胆にもカロッサの頭上にランタンを置くと、そっとカロッサの狼としての輪郭をなぞったと思ったら、男は淡い溜め息を微笑をこぼすと、
「間に合って良かったです」
そんな言葉と共に、己の体から銀の光を放ち、痛くすら感じたその眩しさにカロッサが目を閉じ、しばし意識が遠退きかけた次の瞬間。
「……戻って、る?」
獣の手足は普段の人サイズに戻っていて、あれだけ受けていた矢傷はどこにもなく、ただ穴の開いた黒衣だけが、あれが夢ではなかったことをカロッサに教えてきて。
カロッサは白いマントに全身を纏った男の肩を捕まえ、いったい何があったのかと訊こうとしたその手の甲に、白い装束に負けないくらいの白魚の手が重ねられ、月の光を照り返し、言った。
「ひとまず移動します。今の魔法を関知できるような人間は居ないと思いますが、貴方の想像で敏感になっている街の住人を侮ることは出来ないので。そのまま私に捕まっていてください───カロッサ」
なぜ俺の名を───
そんな問い掛けも許される暇なく、矢傷の痛みから解放されたカロッサの体は次に、無重量と重力の狭間で今度こそ意識を失った。
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