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「かーごめかーごめ、かーごのなーかのとーりーは───」
あの時。
あたしは鬼だった。
しゃがみこんで目隠しをしたあたしの周りをみんなが取り囲む。
逃がしはしない、そう言わんばかりに。
だからあたしはこの遊びが大嫌いだった。
嫌い。
怖い。
───得も言えぬ不安。
歌いながらみんながあたしを囲んで回る。
そして最後にあたしが『後ろの正面』を当てる。
だたそれだけの遊び。
なのなぜか、不安で怖い。
あたしの後ろに立つのはだぁれ?
あたしの後ろの正面は───
「うしろのしょうめん、だぁれ?」
みんなの合唱が終わって、今度はあたしだけの番。
あたしが後ろの正面を当てる番。
「えっとねー」
考えている振りをしながら、本当はただ怖くて胸がドキドキと跳ね上がっている、その緊張に耳さえ塞がれてしまいそうな閉塞感。
恐怖が絶頂に達する瞬間。
後ろを向くのが怖い。
でも向かないのはもっと怖い。
誰がいつのか分からないのが一番怖い、だから。
「さっちゃんでしょ?」
一番の仲良しの友達の名を借りて、後ろを振り向いたあたしを見ていたのは。
「───!」
あまりのことにあたしは声も出せなかった。
そこに居たのは誰でもなかった。
知らない男の子の顔が。
体もちゃんとあったかもしれない。
けどその時のあたしはその顔だけしか目に映らなかった。
目だけが異常に大きくギラギラしていて。
ニタッと笑われた口許に。
のっぺりとした平たい顔。
───人間じゃない。
「いやーっ!」
あたしは叫んだ。
今の、何!?
あれは何!?
「ふーちゃん、ふーちゃん?」
「しっかりして! どうしたの?」
「ふーちゃんっ」
「ふーちゃん!」
代わる代わる呼び掛けてきてくれたみんなの声に、あたしが再び目を開いた時、あの顔は消えていて。けど。
「今……後ろに居たの、誰?」
「いっちゃん」
いっちゃんが……。
違う、違うよ、あれはいっちゃんなんかじゃなかった───!
「───あたし、帰る」
「え?」
「ふーちゃん?」
あたしはみなの声も聞かず、後ろを振り向かず走って帰った。
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