【かごめかごめ】

3/6
前へ
/6ページ
次へ
「かーごめかーごめ、かーごのなーかのとーりーは───」  あの時。  あたしは鬼だった。  しゃがみこんで目隠しをしたあたしの周りをみんなが取り囲む。  逃がしはしない、そう言わんばかりに。  だからあたしはこの遊びが大嫌いだった。  嫌い。  怖い。  ───得も言えぬ不安。  歌いながらみんながあたしを囲んで回る。  そして最後にあたしが『後ろの正面』を当てる。  だたそれだけの遊び。  なのなぜか、不安で怖い。  あたしの後ろに立つのはだぁれ?  あたしの後ろの正面は─── 「うしろのしょうめん、だぁれ?」  みんなの合唱が終わって、今度はあたしだけの番。  あたしが後ろの正面を当てる番。 「えっとねー」  考えている振りをしながら、本当はただ怖くて胸がドキドキと跳ね上がっている、その緊張に耳さえ塞がれてしまいそうな閉塞感。  恐怖が絶頂に達する瞬間。  後ろを向くのが怖い。  でも向かないのはもっと怖い。  誰がいつのか分からないのが一番怖い、だから。 「さっちゃんでしょ?」  一番の仲良しの友達の名を借りて、後ろを振り向いたあたしを見ていたのは。 「───!」  あまりのことにあたしは声も出せなかった。  そこに居たのは誰でもなかった。  知らない男の子の顔が。  体もちゃんとあったかもしれない。  けどその時のあたしはその顔だけしか目に映らなかった。  目だけが異常に大きくギラギラしていて。  ニタッと笑われた口許に。  のっぺりとした平たい顔。  ───人間じゃない。 「いやーっ!」  あたしは叫んだ。  今の、何!?  あれは何!? 「ふーちゃん、ふーちゃん?」 「しっかりして! どうしたの?」 「ふーちゃんっ」 「ふーちゃん!」  代わる代わる呼び掛けてきてくれたみんなの声に、あたしが再び目を開いた時、あの顔は消えていて。けど。 「今……後ろに居たの、誰?」 「いっちゃん」  いっちゃんが……。  違う、違うよ、あれはいっちゃんなんかじゃなかった───! 「───あたし、帰る」 「え?」 「ふーちゃん?」  あたしはみなの声も聞かず、後ろを振り向かず走って帰った。 *    *    *    *    *
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加