3章

4/8
前へ
/20ページ
次へ
「しっかし、疲れたな」 俺はそのままベッドに倒れこむ。朝から動き回ったからさすがにくたびれた。 「な、直至くん」 ミリアが風呂場からタオルを持ってくる。そういえば土砂降りの中歩いて来たから身体が濡れていた。 「あぁ、悪かったな。布団が濡れるな」 俺は寝転がったままタオルを受け取る。するとミリアが何故かしょげた顔をしていることに気付く。 「どうした?」 彼女は重々しく口を開いた。 「直至くん。ごめんね……今日天気悪かったのに、私すごくはしゃいじゃって、また別の日にすれば、ホテルに泊まらなくても帰れたのに」 ショコラオレンジの髪に雫が付いている。俺はもらったタオルで彼女の頭を拭いてやった。彼女が「うわ?」と声を上げる。 「……お前楽しそうにしてたなぁ。言っちゃ悪いがあんなオンボロ水族館で目ぇキラキラさせて」 スタッフもさぞ喜んだことだろう。 「うん、楽しかった」 ミリアは控えめに頷く。 「まぁ、連れて来てよかったよ……なかなかいいものが見れた」 俺も別の日にしようとは、ハナから思っちゃいなかった。彼女が楽しそうにしている姿が見てみたいと、少し思っていたから。 俺が彼女の頭を拭いていると、彼女ははにかんだ笑顔で言う。 「私も、来てよかったよ……直至くんが笑った顔、初めて見た」 俺は目を丸くする。 「初めて?」 「初めてだよ」 自分の表情をさして意識したことはないが、俺はそんなに愛想が無いのだろうか。 「あんまり、他の人に見せないでね」 彼女は冗談めかして笑う。 「無茶を言うな」 俺は彼女の頭からタオルを取り、そのまま自分の頭を拭いた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加