1章

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直至(なおし)ぃぃぃ! これ貰ってくれぇぇぇ!」 初夏の昼下がり宇多田(うただ)が半泣きで俺に二枚の紙を押し付ける。ただでさえ蒸し暑いのにじめじめしやがって。 「何だよこれ」 俺は言いながらそれを摘まむ。イルカの絵が描いてあった。 「水族館のチケットか……? 自分で行きゃいいじゃないか」 「行けなくなったんだよ! 相手が行かないって言ったんだから!」 「誰を誘ったんだよ」 「チェス同好会の新入生の温品(ぬくしな)さん。彼氏いるんだってさー」 「何で約束する前に買ったんだよ……」 俺はため息をついて嘆きの表情を浮かべた宇多田を眺める。ちょっと可哀想だな。 「俺が一緒に行ってやろうか?」 「これカップル割引きなんだよ!」 じゃあ仲睦まじい釘宮(くぎみや)西岡(にしおか)にでもやればいいのに。
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