2章

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2章

その夜、財布の整理をしようと思って何となく置いたチケットをミリアが見つけた。 「何これ?」 「宇多田に貰った。後輩にフられたんだと」 「へぇ、宇多田くんいい人そうなのに」 「彼氏がいたんじゃ仕方ねえよ」 ミリアはチケットを両手でしっかり持ってじっと見ている。そしてまさかの一言を吐き出した。 「行きたい」 目がキラキラと輝いている。子供か。 「お前魚好きなのか?」 さっきシャケ焼いてた癖に。 「ん? 普通」 そんな()い付き方じゃなかった。 「これ郊外のちっさい水族館だぞ、多分そんな面白いものじゃないぞ」 「いいの。直至くんと行きたいの」 この笑顔、久し振りに見る。初めて会った時の無駄に挑発的な顔。絶対譲らない気だ。 「……今週の日曜なら()ってやる」 「やった!」 ミリアが顔を綻ばせて喜んだ。 ……俺もチョロいな。
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