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彼の特徴は毎日来ること意外にももう一つあった。毎回毎回お金を端数が発生しないようにキッチリ払うのだ。中華そばは490円で税込み529円となる、それに餃子の220円、税込みで237円になる。合わせて766円、1000円札に66円を出して300円のお釣りを貰う事があった。あたしはこのキッチリ具合に関しては何も思わなかったが、たまにあたし以外のパートが会計を担当することがあればやはり心無くも「気持ち悪い」と言う言葉を彼が帰った後に言い出すのであった。
6月の梅雨の日、彼は右半身のみずぶ濡れで店に入ってきた。彼はそれに構わずに席に座った。彼はタオルを持っていなかったせいか小さなハンカチで右半身を拭いていた。見ていられなかったあたしは注文を取りに行く際に思わずタオルを渡してしまった。
「すいません、ありがとうございます」
これが彼との接客以外での初めての会話だった。いつも来店の際の「1人で」と注文の際税込みで237円の餃子を注文するので766円となる。766円を小銭でキッチリ出すのと「中華そばに餃子」としか言わないし、会計の際も無言でお金を出すので会話と言う会話が全く無かったのだ。彼は体を拭き終えた辺りでいつものように「中華そばに餃子」を頼むかと思ったのだが、今回は珍しく別のラーメンを注文した。
「すいません、担々麺に餃子を」
彼が中華そば以外のものを頼むのは史上初であった。あたしはこれに驚いたが構わずに粛々とオーダーを通した。雨で体が冷えたからガツンと体を一気に温めるものにしたのだろうと納得しておいた。
会計の際、いつものように端数の無い額を受け皿に置いた後、彼はおもむろに言った。
「すいません、タオル、ありがとうございました」
「いえいえ、気にしなくていいのよ。今日はお車でお見えじゃ無かったんですか」
彼は照れくさそうに頭を掻きながら言った。
「いえ、駐車所から歩く途中の国道沿いで車の水はねを食らっちゃいましてね」
この店は国道沿いにあった。だから客入りも良く採算の取れている店としてエリア長始め役員からも優良店舗として評価されていた。
「まぁ、大変でしたね」
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