ラーメン

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「ははは、本当ですよ」 彼の笑顔を初めて見た。いつも無表情でラーメンを啜る面しか見ていなかったあたしにとって新鮮と言う他無かった。  彼が帰った後、夕方の帰りしなにあたしは店長に呼ばれた。 「最近、メンマとチャーシューの廃棄多いからどうにかしてよ」 そんな事を言われてもただ盛り付けるだけの我々に何が出来るのだろうか。メンマラーメンやチャーシュー麺をメニューに入れて、それを安くすると言う案が瞬時に閃いたが所詮あたしはパート。それが通る訳がないと思い黙っておいた。  翌日、彼はいつものように中華そばに餃子を頼んだ。一日一時間程度の付き合いではあるが毎日会っている関係なので彼に何か出来ないか考えるようになってきた。前日にメンマとチャーシューをどうにかしろと言われていた事を思い出したあたしは彼に対してだけオマケをするようになっていた。4切れ入れるはずのメンマを5切れから6切れ、チャーシューも4枚入れるはずなのに5枚入れるようになってきた。言われなければ気づかないぐらいだ。大衆食堂のおばちゃんだってやっている事だし、別に構わないだろうと言う軽い気持ちがあたしにはあった。それに彼1人分オマケしたところで廃棄の問題は変わらない。廃棄の量が少し減るぐらいなら問題無いだろうと言う自己正当化の気持ちも同時にあった。 オマケをするようになって数十日、7月の蝉がうるさい時期となっていた。当然、冷やし中華が始まる時期になるが彼は相変わらず中華そばに餃子のみしか頼まなかった。更にそれから数日経って夏休みの時期、彼に変化があった。いつものように1人で来るかと思われたがその横には小さな男の子を連れていたのだ。当然いつもの「1人で」では無く「2人」と入店の際に言うのだった。
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