ラーメン

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その瞬間に男の子は満面の笑顔を見せた。お子様ラーメンにもチャーシューは入っていたが極めて小さいおまけ程度のものであった。その光景を見てあたしは微笑ましいと心から思うのだった。少し時間が経ち、男の子の方がお子様ラーメンを完食し、暇になったのか両足をぶらぶら揺らしながら、お子様ラーメンについていたミニカーをテーブルの上で走らせ出した。それを見るなり彼はとっさにミニカーを没収し、自分の鞄に入れた。ミニカーを没収された事に腹を立てたのか男の子は激しく泣き出した。あたしにもあんな感じで子供の世話をしていた事があったものだなぁといつの間にか目頭が熱くなっていた。  店内に男の子の泣き声が響く中気になったあたしは水を注ぎに行くついでに様子を探る事にした。あたしが近づくと彼は申し訳なさそうに男の子を宥めていた。 「ほんと、申し訳ないです」 彼は米搗き飛蝗のようにあたしにペコペコと頭を下げていた。逆にあたしの方が申し訳無く感じるぐらいであった。そして、彼は一旦店から出て子供を落ち着かせた。会計の際も米搗き飛蝗のように頭を下げるのは変わらなかった。あたしは彼が店から去った際に思わず呟いた「他にお客様お見えじゃ無かったから気にしなくてよかったのに」と。そして、レジの下に置いてあった玩具の入った籠にミニカーを入れるのだった。この瞬間にあたしは玩具を渡すタイミングを間違えていた事に気がつくのだった。食事前に玩具を渡すとあの様に遊びだす事を考えて、会計後に玩具を渡せとマニュアルにあった。だが、お子様ラーメンの注文は極めて久々だったので忘れていた。 「しまった。あたしのせいだ」と思ったがやってしまった事は仕方ない。翌日来た時に謝ればいいかと思い割り切る事にした。 翌日から彼は来なくなった……。
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