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「いったいどれだけ滞在するつもりなんだ。三日、四日泊まっても釣りが出るぜ」
「何日居るかは決めていない、また足りなければ言ってくれ」
多すぎる支払いは情報量も兼ねていた。これでいくらか口の滑りが良くなれば儲けものだというアベルの考え通り、男は詳しく説明を始めた。
「建物内だったら、いくらゴミを捨てようがお咎めなしだからな。その分、経営している奴が責任もって処分しなくちゃいけねぇ。決められた場所に、決められた時間に。それが出来なきゃ死罪だ。誰が好き好んで、死ぬかもしれないリスクを負おうとする?」
カウンターの中へと引っ込み、声だけがアベル達へと届く。一、二分後には鍵の束を引っ掴んで、二人の元へと戻ってきた。
「それじゃあ、なんでアンタはこんな商売をしてんだ」
「言っただろ、道楽だよ。そこまで真剣に商売はしちゃあいねぇ。ま、儲かりはするがね。みんな溜まってんだよ、実際のところ」
ストレスなのか、それとも別の何かなのか。意味ありげに含みを持たせて、男はまた笑いを浮かべる。愛想が良いのとはまた少し違うが、よく笑う男だというのが、アベルの感想だった。
「さて、お客様をずっと立たせておくわけには行かねぇよな。何番の部屋をお使いに?」
そう言う男の手の中で、鍵の束がじゃらりと音を立てた。
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