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03.5 夜の小噺
「なにこれ……まるでお城みたい……」
部屋に入るまではしぶしぶといった表情をしていたリィンが、扉を開けるなり瞳を輝かせる。部屋の中を駆け足で巡り、ドアと言うドアを開け、隅から隅まで探索を始めた。
――部屋の装飾は、彼女がこれまでに見たことがないぐらいに豪華だった。
天井には小型のシャンデリアが備え付けられており、爛々と白い灯りで部屋中を埋め尽くしている。キングサイズのベッドには天蓋が付いており、風呂場へと繋がる通路にはステンドグラスが嵌められていた。風呂場は大の大人が数人横になれるほどに広く、浴槽の端には獅子の彫刻が象られている。
「――――」
こういったホテルの存在と用途は知っていたものの、実際に中に入るのはアベルも初めてのことで。内装の豪華さに驚きはしたが、そんな様子を表に出すほど迂闊ではなかった。
「私……こんなところで寝るの初めて……」
屋外では野宿、運良く雨風をしのぐことのできる場所に入っても床や椅子で寝ることもしばしば。キレイに洗濯され白く輝く、ふかふかのベッドなど夢のような存在だったのである。
「……そうか」
電子ロックのかかった硬質的な扉が唯一の出入り口、無機質で調度品などは最低限のものしかない、その中で一人佇んでいた少女。眩く輝く、腐ったビルの一室をアベルは思い出す。
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