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02 違和感
「へぇ……こいつは確かに、噂に違わないらしい」
アベルがほんの少しだけ驚きの籠った声をあげる。街並みは壁も屋根も窓枠でさえも、どこも白に統一されており、その色に一点のくすみもない。流石に道路は例外で、アスファルトの黒が浮いていたが、そのどこを見ても紙や缶類のゴミなどはみられなかった。
“雨の街”エマルビア。かつて一人の男が、決して逃れることのできない大災害が待ち受けるこの土地に根を下ろし、幾年をかけて作り上げた街である。
街の随所に、大雨の対策の為に設置された排水溝があった。用水路も街を縦横無尽に走っており、どこかに溜まり氾濫しないよう、街の地下へと雨水を逃がすような構造になっている。まさに“神の悪戯”に耐えるための街並みといった様子。
「確かに見た目はちょっと変だけど、それ以外は他の街と変わらないね」
リィン自身、それほど多くの“まともな街”を見たことがないが、それでもその数少ない経験知識から照らし合わせても、街として機能するための殆どは備わっているように見えた。
街の中で人が歩き、数は少ないものの車が走る。店も食料品や衣服などを取り扱う店がないこともない。人々の生活があった。営みがあった。確かにここは街だった。リィンはそう認識していた。
「……どうだかな」
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