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「よぉ、あんたらお客かい? 今なら安くしておくぜ」
支配人らしき男がカウンターにいた。普通こういったホテルでは、客は誰かに見られることを嫌う。もちろん、アベルたちはその類の客ではないのだが、それでもこうして予期してないタイミングで人が現れたことに、思わず眉を顰めてしまう。
「潰れたところを買い取ってるだけで、実質はただの宿だよ。ただの道楽だ。たまには、そういった客も来るがね。……まぁ、アンタみたいに“ヤベー趣味”を持ってる奴ぁ見たことがな――」
「――――ッ! ダメ、アベル!」
男は肘を突きながら、アベルとその背に隠れるようにしているリィンを見て、下卑た笑いを浮かべていたのだが――そのリィンの叫びによって、喉元へと伸びたアベルの右手に気付き、弾かれたように仰け反った。
「……命が惜しければ、余計な詮索はするな」
圧の籠ったアベルの言葉に、冷や汗を垂らしながら薄ら笑いをする男。
「ハァ……。リィン、他の宿を探――」
「待ちな」
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