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「こんなところに偶然来るなんて、まずありえねぇ。誰かに教えられて来たんだろう? 見たところ、外から来たんだろうしな。……この街に他の宿泊施設なんてねぇぜ」
「えぇぇ……」
「そんな嫌な顔すんなよ。この街の規則を知らねぇわけじゃねぇだろ。知らねぇんだったら、さっさと街から出た方がいい。身をもって知るのは、自分の命が無くなる直前だぞ」
「……規則なら知っている。それと街に宿泊施設がないことに、なんの関係が?」
「泊まるところに困っているんだろ? 今ならがら空きだ」
暗に客じゃなければ話さないぞ、と言っていた。相変わらず嫌そうな顔をしていたリィンの方を見ず、アベルは幾らかの紙幣を渡した。
「アベル……」
「……屋根があって、雨風を防げるだけ十分だろう」
不安そうに様子を伺うリィンだったが、諦めろと首を振る。アベルもいくつもの修羅場を越えている。面と向かって話せば、相手が嘘をついているかどうかぐらいはぼんやりだが感じ取れるのだった。そして男は嘘をついている様子はなかった。
街には男の言う通り、ここにしかホテルはない。
そうして、代金を前払いで渡された男は目を丸くする。
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