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玄関の扉を少しだけ開けると、そこには背中が丸まった豊かな白髪をひとつに括った、小さなおばあさんがこちらを優しげな瞳で見上げていた。
「こんな時間にすみません」
「あ、あの……どちら様ですか?」
「星を見させてください」
「はい?」
噛み合わない会話をしながら、おばあさんはなんと星が見たいと願い出てきた。
「外を歩いていたらね、白くて大きい筒を持った人がベランダに出てきたの。それ、双眼鏡でしょう?」
どうやらおばあさんは、道を徘徊している途中に、ベランダで望遠鏡を設置している私を発見したらしい。玄関から見えるらしい望遠鏡(おばあさんが言うには双眼鏡)を指さしながら、口元を緩ませていた。
「これは望遠鏡ですが……」
「一度星を間近で見てみたかったの。すこしでいいから、見せてください」
訂正もむなしく、なぜかぺこりと頭を下げられてしまった。
しかし普通、見ず知らずの人の家に星を見るためだけに来るものなのか。しかも時間は夜中を回っている。やはり痴呆老人だ。私は警察に電話しようと思ったが、なぜか口は思わぬ方向に動いた。
「……じゃあ……少しだけ、覗いて見ますか?」
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