星との会合

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「まぁ、一瞬だったわね」 「まだまだ流れてきますよ、ほら」  ひとつ流れ星を見つけると、不思議と次々に流れ星が見えてくるようになる。 ひとつ煌めいてはまたひとつ。そのうち夜空にはたくさんの星の線が描かれていき、まんべんなく夜空をきらめきで包んでいった。  こんなロマンチックな光景を、なぜか見ず知らずのおばあさんと見ることになってしまったのかはおいといて、この漆黒の夜空にまんべんの星が煌めきながら駆け抜けていく様が、私は大好きなのだ。 「……彼女にも見せてあげたかったな」 「彼女? あなた恋人がいるの?」  私の呟きにおばあさんは流れ星を見ていた目をこちらに向けた。なぜかその目には、まだ流れ星が映っているように見えた。 「えぇ、まぁ。でも、今入院しているんです……手術の必要な病気で」 「そうなの」 「とても綺麗な人で、私と同じく天体観測が好きな女性なんです。 星座は一個も覚えられないような人なんですけどね」  恋人は病弱な人だ。いつも白い天井と白い壁に囲まれ、時々外が見える窓をのぞいてはため息をつくことが多かった。  そこで私は、自分が好きだからと言われればそういうしかないが、星の図鑑を彼女に贈った。その本を彼女は大事そうに、けれど興味津津に読んで、わからないところがあれば私に聞いてきてくれた。  いま彼女はどうしているのか。深く暗い病室の中で、なにも光らないただ白い天井を見つめて起きていなければいいと私は切に願った。 「こんなこと、見ず知らずの方に言う話じゃないですね。すみません」 私はおばあさんの方を向き、なぜか申し訳なくなった気持ちで頭をかいて、夜空を見上げるおばあさんの横顔を見つめた。 「私も好きよ、天体観測」 「え?」  おばあさんはにこっと私に笑いかけると、その重たい腰をゆっくり起こしはじめた。 「今日はありがとう。 じゃあまた会いましょうね、イケメンなお兄さん」  そういうと、ベランダから壁伝いに手を置いて部屋の中に入り、よたよたとふらつく足で玄関の扉を開けてこちらに向かってお辞儀をした後、あっという間に帰ってしまった。
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