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「……ふーん。それって、甘い感じのやつが良いの?」
言ってしまった後で、恥ずかしいと思った。
相手は、白馬の王子様でもイケメンアイドルでもない、米津君改めボサボサのリョウ君だし。
でも、どうせ明日には世界が終わってしまうんだから。
どれだけ恥ずかしいことをしたって、明後日には私もリョウ君も消えて無くなってるんだから。
いつもの自分より少しくらい大胆になったって、良いんじゃない?
「うん……甘いのが、良い」
「……そっか。分かった」
すると、リョウ君は私の手を離し、1段下がったところで、私の方を向いた。
私より頭1個分は背の高いリョウ君と、丁度目の高さが一緒になった。
「アカリ、好きだ。俺の彼女になって?」
リョウ君……さっきからずっと思ってたけど、物凄くバリトンボイスなんだね。
そんなことを思いながら、私は自分が読んでた漫画のヒロインみたいになれた気がして、すっかり気分が舞い上がってしまっていた。
間違いなく、顔は真っ赤だ。
「すご……夢、1つ叶った」
「アカリ、返事は?」
「え……あ、ああ……はい。大丈夫です」
私の返事に、目の前のリョウ君が吹き出す。
「違うし。そこ、私もリョウが好きとかじゃないと、甘くならないよ?」
あ……リョウ君的には、甘くならないんだ。私的には、もう十分過ぎるくらいに甘いんだけどな。
「ほら、言ってみ?」
いやいや、リョウ君。
こんな至近距離で本人に向かって好きだって、いくらなんでもハードルが高いよ。
反らし気味にしていた瞳をリョウ君に向けて、苦笑いしながらそんなの言えないよって、言おうとした。
それなのに。
マスクをずらすリョウ君の残像が見えたかと思ったら、だ。
「……え?」
私は次の瞬間、リョウ君にキスされていた。
しかも、しっかりと唇に。
今度はマスクがないから、リョウ君の唇の柔らかい感触が、はっきりと伝わってきた。
時間にしたら、1秒もなかったくらいだけど。
それでも、キスされた感が伝わってきた。
ハッと我にかえると、リョウ君はまたマスクをしていた。
心なしか、一瞬見えた顎の辺りの輪郭や鼻筋、唇だとか、すごく綺麗だった気がする。
目の前のリョウ君の眼鏡の奥の瞳が、笑って揺れた。
「3年付き合ってる前提でのやり取りだし。あり得そうじゃない?この感じ」
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