溶ける溶けない

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肌を焦がすような強い日差しがここ数日続き、外に一歩踏み出せば陽炎が揺らめく地獄のような世界に浸ることが出来る。 季節が季節なだけに、アイツの声を聞かないわけにはいかないのが辛い。 わざわざ暑いなか氏族繁栄のために命を懸ける行為に、可愛そうな奴だと同情する他に卑下してしまう。 「暑いよぉ......」 今朝の天気予報では酷暑だの数年ぶりの異常気象だの、演技でもない言葉が連なっていた。 これには世間で起きている事件や事故も暑さの情報に埋もれてしまっている。 だが、天気予報士が必死に舌を回しながら現状を伝えるのも、埋もれてしまうのも仕方がないと言えるだろう。 「これでまだ八月じゃないんでしょぉ......?」 学校机に烏の濡れ羽色した髪を机の上でうねらせて突っ伏して、先程から弱々しい声を漏らし続ける女生徒──メイ先輩にうっかり、否、意図的に怪訝な視線を送った。 「先輩、少し黙ってください。 暑さがうつります」 「もっとうつしてやるぅ......」 何が癪に触ったのか、先輩は不気味に低く声を唸らせて、念を送っているように暑さを押し付けてくる。 暑さに関しては凌駕できないのだが、それで体感温度が下がるのなら良しとした先輩らしい謎の行動だ。 普段通りで一安心すると同時に、少しばかり暑さを感じてきた皮膚感覚に顔をしかめる。 ひょっとすると蝉の鼓膜を削るような鳴き声は、自分の印象を強くさせる一方、体感温度を他者に擦り付ける行為なのだろうか。
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