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千夏の章
マタイ7章 15節
彼らは羊の皮を被って
あなたがたの所に来るが、
その内側は貪欲な狼である。
千夏は手のひらで俺を目隠しする様な素振りで不安そうな声を絞り出した。
「やだ見ないでかず君」
懐かしい抑揚。
久しぶりに幼馴染みの千夏が、
かず君と呼ぶのを聞いた。
そんな姿に幼き日の面影が重なって見えた。
最後に俺をそう呼んだのは、
あれは確か・・・
俺が小学校に上がったばかりの頃だ。
それは記憶の断片。
優しき時間に包まれた、
その情景が脳裏に浮かぶ。
沸き立つ日々の木漏れ日に包まれた様な時間に。
万華鏡の輝きの中に。
初夏の香りの中に。
記憶の残骸の中に沈む。
そして記憶の扉を開けたらそこは、
小鳥達が囀ずり木々で待ち合わせする時間。
永遠に続く木漏れ日 の中だった。
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