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「目が乾燥してるんじゃない? 目薬貸してあげましょうか?」
「……お前なぁ」
そのあまりにも普段通りの調子に拍子が抜けそうになる。
「何よ?」
「さすがに休みすぎだろ。みんなお前のことを忘れ始めてるぞ」
僕は努めて冷静に振る舞った。
「仕方ないよ。だって、ルールを破っちゃったから」
「ルール? 委員長ほどルールを守ってたやつもいないだろ。掃除はサボらないし、遅刻もしない」
「学校のルールじゃなくて、雪女のルールのこと」
「雪女?」
一体何を言っている?
「昔、あんたに言ったでしょ? 雪女のことは誰にも言っちゃダメって。なんと、私はあの時の雪女なのでーす。ね、びっくりした?」
と、もったいぶることなくサラリと爆弾発言をかます委員長。や、そんな重大なこと、もっと厳かに言って欲しかったわけだが。
「……マジで言ってんの?」
一応訊いておく。
「上手かったでしょ?」
委員長はいたずらっぽく笑う。
「は? 何が?」
「女子高生に化けるのが、よ。さっすが私よねー」
「お前なぁ」
「でも、もうもおしまい。本日をもって、雪女ちゃん女子高生バーションは終了です」
「それって僕がルールを破ったからか? だとすれば、絶対におかしい。僕はルールを破っていない。僕は誰にも雪女のことは言わなかった」
それだけは胸を張って断言できる。僕は秘密を守っていた。
けれど、彼女は残念そうに首を横に振り、
「ま、事故みたいなものよ。君に勉強を教えてあげるって言った日のこと、覚えてる? ほら、あの日。私ってば放課後の図書館で寝ぼけた君に手を掴まれたじゃない。ねっとりといやらしく」
そんな変質者みたいな触り方はしてないがな。
「実はあの時、君ってば私の手を掴みながらこう言ったのよ」
彼女は冷たい口調で呟いた。
「――雪女って」
はっと息を呑む。
確かにあの時、僕はいつもの夢を見ていた。
最後に必ず、「雪女」と彼女に呼びかける遠い昔の夢を。
もしかして、それが原因なのか? そんなことで、僕はルールを破ってしまったことになるのか?
だとすれば……。
「殺さなくていいのか」
そういう約束だったはずだ。
秘密を破れば、僕は雪女に殺される。
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