もういいかい? もういいよ。

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 自分たち以外誰もいない教室で、僕と先生は机を挟んで向かい合う。 「志望校のことです。前に言っていたあの大学、まだ受けるつもりですか?」  ああ、やはりそのことか。 「別にもう拘っていませんよ。近所の、僕の学力に見合った大学にしようかなと思ってます」  雪女はもういない。  先生も安心してくれるだろう。  ところが、先生は眉をひそめ、 「せっかく頑張って勉強していたのに勿体無い話ですね。もしかして何かありましたか?」  意外にも残念がってくれた。 「それはまあ、何と言いますか」  説明したところで信じてはもらえないだろう――が、ちょっと待て。むしろここは話すべきではなかろうか。  この超リアリストさんならば、雪女にまつわる僕の経験談などイタい妄想とばかりに全否定してくれるはず。多少荒療治ではあるが、無駄な会議のようにダラダラと続く未練を断つきっかけになってくれるかもしれない。  既に彼女が消えてしまった以上、別に雪女の話をしたって問題ないわけだし。  よし。  覚悟は決まった。 「先生。ちょっといいですか」 「はい?」  そういうわけで、僕は先生に全てを打ち明けた。 「以上です」  自分から話を始めておいてなんだが、誰がこんな非現実的なことを信じてくれるというのか。人によっては精神科への通院を勧められてもおかしくない。  しかし、現実はいつも僕の予想斜め上を行く。 「なかなか興味深い体験をしたのですね」 「……へ?」 「正直言って、とても羨ましいです」 「こんな意味不明な話、信じてくれるんですか?」  怒られるどころか、むしろ先生は笑顔すら浮かべている。 「『雪女』という昔話を読んだことはありますか? あなたの体験は、実にそのお話と似ています」  お恥ずかしながら、きちんと読んだことはない。断片的に話の内容を知っているだけだ。 「あのお話に出てくる雪女も、結局は愛する男を殺さずにひとり雪山へと帰っていきます。その姿はとても切なく、そして儚いです」 「あの、もしかして先生って……『雪女』の話が好きだったりします?」 「ええ。他には『親指姫』なども好きですね。これでも小さい頃はとてもメルヘンチックな乙女でしたから。というか、今もそれなりに乙女です。見て分かりません?」 「いえ、まったく」  時間の流れって残酷だ。
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