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「まったく失礼な男ですね」
と、ほんの少しだけ頬を膨らませる先生。
もしかして拗ねた?
「雪女って冷酷なイメージで語られることが多いけれど、本当は違うんです。むしろその逆。彼女たちは孤独が大嫌い。冷たい体を優しく暖めてくれる人間の心をずっと待ち続けている。あなたが会った雪女さんも……きっとそう。ずっとあなたのことを覚えていて、もう一度、昔のように遊んでみたかったのでしょうね」
「一緒に遊ぶ?」
「約束したのでしょう?」
何度も見た、あの夢。
……そうだ。
僕たちは約束した。
――ここで待ってるからね。約束よ? 明日は君のオニからね。
――でも、良かった。少し形は違うけれど、君は私を見つけてくれた。
彼女の声が聞こえた気がした。
「そうか。そういうことだったんだ」
なぜ、こんな簡単なことに気がつかなかったのだろう。
僕は、オニなんだ。
かくれんぼのオニなんだ。
それなのに僕がずっと探しに来ないから、あいつは人間に化けてまで「もういいよ」と言いにきたのかもしれない。自分の身を危険に晒しながら。
勉強も見てくれた。僕を助けてくれた。
それなのに、僕はあいつに何かをしてあげたか? ただ、約束を破っただけじゃないか。
「約束は、守らなきゃな」
僕はまだ彼女を見つけていない。見つけなければいけない。薄情な大馬鹿者でいるのは、もうたくさんだ。
「先生。やっぱりあの大学、受けます」
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