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「急にどうしたんです?」
「あいつとの約束を果たせてないんです。とにかくあいつの近くにいたい。僕はあいつを見つけてあげなくちゃだめなんだ」
「本当にそれでいいの? あなたの話を信じるならば、雪女さんはもう雪に戻ってしまったのでしょう? いくら待ったところでも一生会えないかもしれませんよ」
確かにそうかもしれない。
けれど、
「それだっていいんです。探して、探して、結局見つけられなかったとしても後悔しません。」
「犠牲の多い人生になりますよ」
「構いません」
「いわゆる、〝普通の幸せ〟はいらないと?」
「いりません。それは僕以外の人がきっと手に入れてくれる」
世界にはたくさんの人がいる。ならば、そんな大勢のうちの一人が雪女を追いかけて死んでしまっても大した問題ではないだろう。頭がおかしいと後ろ指を指されるかもしれない。けれどそれでいい。僕が送れなかった人生は、必ず他の誰かが送ってくれる。
「はぁ……教師生活で一番狂った志望動機を聞いた気がします」
先生は心底呆れたようにため息をつく。
「ダメですか?」
「いいえ。一人の女の子のために人生をかける――最高じゃないですか。聞いているだけで心が踊ります。だから、胸を張って受けてきなさい。私はあなたを応援します」
そしてまた氷室先生は微笑んだ。
どんな朴念仁であれ一瞬で恋に落ちてしまいそうな、それはキュートな笑顔だった。
そしてあっという間に時間は過ぎ――
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