5人が本棚に入れています
本棚に追加
男はもう何歳になったのだろう。
大学に合格してから現在に至るまで、彼はずっとこの北国で暮らしている。祖母の家は一人では少し広すぎるけれど、その寂しさにももう慣れた。
男は卒業した後も研究員として大学に残り、取り憑かれたようこの辺りの郷土史と民俗学を調べ続けている。かつての同級生たちの多くが結婚し、子供を産み育てているのに比べ、彼の毎日は実に簡素なものだ。マラソンでひとり置いていかれるような焦りと不安。気を抜けば一気に窒息死してしまいそう。
そんな時、ふと思う。
どうして自分はこの大学を受験したのだろう、と。
何かとても大切なことがあったはずだ。けれど、どうしても思い出せない。
それがとても悲しい。
最初のコメントを投稿しよう!