もういいかい? もういいよ。

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 夢を見た。  少年は小さく、そして何事にも柔軟だった。  サンタクロースの不在は知っているが、アザラシとアシカの違いを理解できないほどには幼い。マッカーサーやGHQなんて名詞はおそらく頭の片隅にすら存在していないように思う。  少年は宇宙のようにだだっ広い公園をひとり忙しく、けれど、とても楽しそうに駆け回っていた。  夏休みを利用して北国にある祖母の家に遊びに行ったとき、彼はいつもそこで遊ぶ。  白く大きい入道雲。雨音のように響く蝉の声。母に持たされた水筒。  もっと大切なことはたくさんあったはずなのに、そんなことばかりが影法師のように頭から離れない。  祖母の家は子供どころかそもそも住人自体が少ない地域にある。園内で自分以外の人間を見かけることがほとんどないのも当然といえば当然だった。  だからこそ、少年は今でも少女のことを覚えている。  少し疲れたのか、少年は木製のベンチに腰掛けた。そのままぼんやり座り続けること数分間。  ふと、あることに気がついた。  空から何かちぎれた綿のようなものが、ひらりひらり、と絶え間なく落ちてくる。ホコリか何かが風で飛ばされてきたのか? が、どうやら違うらしい。  試しにひとつ、手のひらで受け止めてみる。  ひやりと冷たい。  それはあっという間に形を失い、ただの水滴へと姿を変えた。  雪?  いくら北国とはいっても季節は夏。そんなもの降るわけがない。小さい自分でもそれぐらいは分かる。 「そんなに珍しいものかしら」  今度は頭上から声が降ってきた。少年はゆっくり顔を上げる。  目の前に立っていたのは可愛らしい女の子。年は自分と同じくらいだろうか。おかっぱに切り揃えた黒髪にどこか色素の薄い瞳。雪のような白い肌は水色の着物で包まれており、汗なんて一滴もかいていない。まるで彼女の周囲だけが冬のようだ。 「そりゃあ、今は夏だし」 「雪だって夏に降りたくなる日もあるわよ。これだからお子様はダメね。ロマンってもんが全然分かってないのだから」  やれやれと肩をすくめる少女。外見とは違いやけに口調が大人っぽい。 「はぁ? 自分だって子供だろ?」 「私はいいの。だって私、妖怪だもん」
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