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「妖怪?」
「雪女。見て分からないものかしら?」
「や、無理だろ。だったら名札でもつけといてくれ」
「やーよ。あれ、服に穴が空いちゃうし」
妖怪のくせにえらく小さなことを気にする。それが少年にはおかしくて仕方がない。
「お前、ヒマなのか? だったら一緒に遊ぼうぜ。一人遊びもそろそろ飽きてきたんだ」
「三回まわってワンと吠えるのなら、考えてもあげていいわ」
少女の顔が嗜虐的に歪む。
その子供らしからぬ――いや、妖しさに満ちた人外の笑みは大の男をも魅了し、そして凍りつかせる。
が、
「吠えるかよ、バカ」
相手は良くも悪くも子どもである。子どもは無敵だ。それがたとえ妖怪の誘いであっても関係ない。
「……な」
絶句する少女。
「別に一人で遊ぶからいいよ。じゃあな」
ベンチから腰を上げる少年。
「ちょ、ちょっとお待ちなさい! この愛らしい雪女様の命令を無視するなんていい度胸してるわね! あー分かったわよ! だったら死ぬまで遊んでやろうじゃないのよ! 持ってけ泥棒! よ! この商売上手!」
少女は取り乱し、半ばヤケクソ気味にそんなことをのたまった。
「……だったら最初からそう言えよ。めんどくさいガキだな」
「ガキはそっちでしょ!?」
「あー分かった分かった。じゃあ何して遊ぶ? 鬼ごっこでもするか?」
「やーよ。走ったら疲れるもん」
「だったら……かくれんぼとか」
「それならオッケー」
や、かくれんぼも走るけどな。と思ったが少年はあえて何も言わなかった。
そうして二人は陽が沈むまで夢中で遊び続けた。
帰り際、少女が言う。
「雪女のこと、誰にも言っちゃダメよ」
「なんで?」
「ルールみたいなもんよ。もし誰かに言っちゃったら、私は君を殺すから。いい? 分かった? 絶対に秘密よ」
とりあえず適当に頷いておく。どうせ嘘に決まっているし。
「ねえ、明日もここに来るの?」
「おう」
「そ、じゃあ明日も遊びましょ。ここで待ってるからね。約束よ? 明日は君のオニからね」
しかし、その約束は果たされなかった。
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