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が、先生の言うことはすべて真実だ。両親にも似たようなことを言われた。反論材料の欠片すら見当たらない。
「とりあえず話はここまで。家に戻って、もう一度ゆっくりと考えてみなさい。それでは気をつけて帰るように」
挨拶もろくにせず、僕は一丁前に肩を落としながらアル中患者のようにふらふらと図書室を後にした。
正門前で委員長が僕を待っていた。九月の赤い夕日が彼女の艶やかな黒髪をキラキラと輝かせている。
「ねえねえ。話ってなんだったの? もしかして怒られた? だったらかわいそーに……ご愁傷様です。南無南無」
お通夜よろしく合掌で拝んでなんかきやがる。しかもなぜか妙に楽しそうだし……委員長はあれか、消防車のサイレンが聞こえたらテンションが上がるタイプか。
「うるせーな。別にたいしたことじゃない」
「その割には元気なさそう。道に迷ったトドみたいな顔してる」
「何だそれ」
僕たちは門をくぐり、肩を並べて歩き始めた。
「志望校の話だよ。このままだと僕は不合格一直線みたいだ」
「ふーん。それで?」
雪女のことは伏せつつ、先生とのやり取りを説明する。
「で、どうすんのよ」
「どうするって?」
「だから、その大学を諦めるのかってことよ」
「そりゃあ諦めたくないよ」
一度志した目標だ。動機がはっきりしないとはいえ簡単に投げ出してしまいたくはない。
「マジ?」
「マジ」
「ふーん。前向きじゃん」
委員長は三つ編みを指先で弄びながら少し考え、
「よしっ。それじゃあ明日から私があんたの勉強を見てあげる」
と宣言した。
「は? 何それ?」
「何ってそのままの意味じゃん。学年トップのこの私がマンツーマンで教えてあげんのよ? まさに鬼に金棒、猫に小判。よ! 持ってけ泥棒! この商売上手!」
そして僕の肩をポンと叩く。
「いや、それはめちゃくちゃ助かるけど、委員長の勉強はいいのか? そっちだって受験生だろ」
「私はいいのよ。間違いなく推薦もらえるし」
「あ、そっすか」
僕ごときが心配することではなかったらしい。
「それじゃあさっそく明日からガンガンいくから」
子どものようににっかり笑う委員長。
ああ、僕はこの笑顔を生涯忘れることはないんだろうな。不思議とそう思った。
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