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約束通り、委員長はずっと勉強を教えてくれた。休み時間、放課後、空いた時間を見つけては親獅子のように厳しくも優しい指導を与えてくれた。
そのおかげで僕の成績は見違えるように向上し、彼女にどうお礼をしていいのかと頭を悩ませる毎日が続いている。
いつの間にか秋も終わり、冬が来た。雪はまだ降っていない。
少し、あの夢を見る機会が減ったように思う。
師走になり、寒さは一向に厳しくなった。
今日も朝一で学校に行く。教室に入り、まず委員長の姿を探す。彼女からの課題をすべて終わらせたと報告したかったからだ。
が、見つからない。
「あれ?」
夏川蒼海という少女は誰よりも早く登校する。遅刻も欠席もしない。哲学者カントのごとく彼女の行動は精密だ。
結局、授業が始まっても彼女が現れることはなかった。
委員長のいない教室はどこか物足りない。ショートケーキにいちごが乗っていないようなものだ。
ただ、他のクラスメイトたちは不思議にも思っていないらしい。
誰も夏川蒼海の不在を心配しない。いつだって彼女は友人に囲まれていた。それなのにこんなことってあるのだろうか。
無性に腹が立つ。
数日たっても委員長は現れなかった。さすがにおかしいと思い、僕は職員室にいる氷室先生に聞いてみることにした。
「先生、どうして夏川はずっと学校を休んでいるんですか?」
「夏川?」
「はい。もしかしてインフルエンザとか」
先生は即答せず、ただただ眉間にしわを寄せる。
「クラス委員長の夏川蒼海ですよ」
「委員長は木村さんでしょう? それに私の記憶しているかぎりでは夏川という名の女子生徒、うちのクラスだけでなく、この学校には在籍していないと思いますが」
と、そんなことを言う。
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