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「お姉さん。堺町二条とか、そんないいとこ住んでんのに、京都嫌いなん?」
「地元民、だからですよ」
と、彼女は床に落ちたままだったチラシをそっと拾い上げた。そのまま、描かれている五重塔と舞妓のイラストを眺める。
「私の父が社長で、老舗の人に会ったりするんですけど……ずっと住んでるからこそ、嫌な部分ばっかり見えるんです。お商売でもプライベートでもたくさん見てきました。京都の独特の雰囲気が分からなくって、イケズされて、傷ついた人を沢山見てきました。私自身もそんな京都人の一人かと思うと、それも嫌で……。やから、今は学生ですけど、卒業したら京都を出て就職しよ、って思ってるんです」
五重塔を指でなぞり、話し終えた彼女は、再びチラシをテーブルへと戻した。
「うーん……そうなんや」
「すみません。京都が好きな方にこんな話を」
申し訳なさそうに小さく頭をいやいや、と、塔太郎は笑ってみせたが、その本心はというと、やはりショックである。
京都をどう思おうが人の勝手ではあるけれど、こんなに可愛らしい地元の子まで、京都嫌いになるなんて。いくら寺社仏閣があったって、これはあまりにも寂しい。
京都かって、優しい人は沢山いるのに……。このまんまではあかん!
そう強く思った塔太郎は、
「ちょっと待って!」
と、勢い、帰ろうとする彼女を引き留めた。
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