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「これ、入部届けとかあるんですか」
「え」
塔太郎は胸に押し付けられたチラシを慌てて掴み、彼女の真迷いなき眼差しを受けた。
「あったら、ください」
「な、何で?」
「何でって決まってるじゃないですか。クラブに入るって言うてるんです……私を、京都好きにさしてくれるんですよね?」
ちょっと見上げてくる彼女は挑戦的な京女の顔で、強気で、美しかった。塔太郎は薄絹がめくられていくように、嬉しさでいっぱいになる。
「……ほ、ほんならこのチラシに名前と連絡先書いて! それで入部にするし! 部長は俺、坂本塔太郎(さかもと とうたろう)です! 今日中に、絶対連絡さしてもらうしな!」
「上等です」
彼女はニヤリと笑って鞄から万年筆を出し、チラシの五重塔と舞妓の下に、名前と電話番号を書いた。
塔太郎と玉木が首をもたげて読むと、名前は「古賀大」と書いてあった。
「こが……?」
塔太郎が小さく音読してみると、
「まさる、です」
彼女はにこやかに答えた。
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