京の都に恋をして

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「塔太郎さん。そろそろ店長が帰ってきますよ。ーー古賀さん、今から僕らは仕事ですけど、終わったら、僕からも連絡しますね。僕は御宮玉木(みや たまき)と言います。塔太郎さんの後輩です」 「はい。よろしくお願いします」 玉木が椅子から立ち上がる。塔太郎も雑誌を片付ける。それを見て今度こそ店から出ようとした彼女に、塔太郎は再度声をかけた。 「なぁ」 「はい」 彼女は、木枠にガラスがはめられたドアに右手をかけたまま振り向いた。 「さっき、自分の名前が好きって言うたけど……ほんまは、名前やなしに由来の大文字山が好きなんちゃう? そのジャケットにも桜がついてっし、和物も好きなんやろ。 ……やから。ひょっとして、ほんまは、」 「私、京都は嫌いです」 それ以上言わないで、というように、彼女は声を被せた。 「き、ら、い、ど、す!」 ちょっと歯を出して、いーっとした笑顔を最後に、ドアがぱたんと閉められた。 彼女の気配が消えるまでドアを見つめて、聞こえるのは店内の洋楽だけだった。 「……さぁ、どこへ行こっかな」 「舞妓さん見に行きましょうか」 「お前、そればっかりやんけ」 微笑ましい余韻を噛み締めながら、塔太郎と玉木は、記念すべき彼女の第一回目をどこにすべきかと、考え始めた。 (おわり)
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