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第1話
「ミカエラ様? もしかして、バリエ男爵家の、ミカエラお嬢様ではございませんか?」
ヨーロッパのケルト海上に浮かぶ島国、アルーンサム王国。
その首都、ソルナビアの南に位置するトスアール市場のはずれで、籐で編まれた小さなかごを片手に、疲れ切った顔で、道行く人の足元をぼうっと眺めている一人の少女がいた。
サロンに戻る途中だった占い執事のクリストフは、道端にしゃがみこむその少女に目を留め、立ち止まった。
大きな緑色の瞳には精彩がなく、もともと持ち合わせているはずの美しい顔立ちも、よくよく見なければそうとは気づかないくらい、全体的にくすんだ印象を与えている。
「ミカエラ様ではございませんか? わたくしでございます。占い執事のクリストフでございます」
「・・・クリストフ?」
クリストフの数度にわたる呼びかけに、やっと顔をあげた少女。その面差しは真っ青でやつれきっており、クリストフの知っている輝かしい笑顔の持ち主とは到底思えないほど憔悴しきっていた。
「ミカエラ様・・・」
クリストフはおもわず言葉を詰まらせた。このみすぼらしい召使い服を着た少女が、自分がずっと行方を気にしていたあのミカエラであるとはにわかには信じられない。
クリストフは、青い空を思わせる優し気な瞳を曇らせ、戸惑いを隠せない様子で言った。
「いったい・・・いったいどうなさったのですか? 何があったのでございますか?」
「あの・・・大丈夫よ。心配しないでクリストフ。ちょっと疲れてしまって、休んでいただけだから」
「休む? こんな道端で?」
クリストフの何気ない言葉に、ハッとしたように顔をこわばらるミカエラ。その顔は、かつての幸せだったミカエラに、大きな不幸が起きていることを示していた。
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