ふたり

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ある日、グレーは私に言った。「死んだらどうなるのだろうか」 「分からなくなったんだ」 グレーは、深くシワが刻まれた顔を苦しそうに歪めた。 「魂はどこへ行くのか。大人が怯えていたのは、これだった」 私は何も言わなかった。グレーはいつも正しいから、この悩みもいつか正しく子供達を導くだろう。 ただひとつ分かっている事があったので、私はグレーに言った。 「私の魂はずっと、あなたの側にいるわ」 グレーは、私がそう言った日から一週間本の部屋へ篭り、出て来た時には、 『天国と地獄はどちらもあわせてあの世と呼ぶ』 という教えを子供達に教え始めた。理由は語らなかったが、大人たちは強張った顔と肩を緩めて以前より穏やかに過ごして、死んでいった。 それは間違いなく正しい事だと、私の女の友人が死に際に言った。どちらも必要だったと気づいたグレーは偉大で大きい方だ、と言い遺してこの世を去り、その言葉は都市の一番大きな広場に建てられた石碑に刻まれて、ずっと人々の心を満たしていた。 その日は、海の側で式典をした。グレーと私は、多くの人の前で並んで海を見た。遠くに昇る朝日が都市のビルを照らし王と王女を讃えて、国民の惜しみない拍手に包まれた時、端にいた少女が濡れた岩に足を滑らせ海に落ちた。 ジャポンの音は、拍手と歓声で掻き消されて、その子は死んだ。 グレーは、海で大きな声や音を禁止した夜、私に言った。 「人生で、ままならない事しかなかった。子供の頃はなんでもできると思っていた。人とはままならないものだ」 事故は都市で特に増えていた。それは仕方のない事だと言った。人々はそれを理解したし、悲しむ王を讃えもした。 人とはままならないものだ、というのが国の人々の口癖になった。
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