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私は王女を娘に譲った後、町を散歩するのが好きだった。グレーは賢者として王に様々な考えを教えていた。
散歩から帰り、夕食でグレーと会話をするのが一番の楽しみで、その時だけはグレーも笑っていた。私たちは、国民ごと幸せを感じた。
夏の暑い日、グレーが一番暑いと決めた日、海では多くの国民が遊んでいた。散歩中の私を見ると駆け寄って笑い語らう大人や子供の幸福に満ちた笑顔の話が、グレーは一番好きなのだった。
人がいない場所まで歩いて、私はふと海を見た。人がいない岩陰で、魚が暴れているように水しぶきが上がり、肌色の腕が見えた。
水を必死で掻いて、その子を救った。その日以来、町へ出ることは叶わなかった。
「少し怖い」
私は最期に言った。
「自分が天国か地獄へ行くのか分からないから。それとも違う何処かへ行くのかしら」
グレーは最後に言った。
「死の真実は、教えとはきっと違う。確かめることはできない。昔君は、ずっと僕の側にいると言ったね。それが君の真実だ。君は誰より優しい立派な人だった。きっと楽になる。頑張らなくていいから、楽になれ」
グレーのゆれる瞳に煌めく海をみた気がして、それがあまりに美しいから、私は息をとめた。
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