庭にて

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 女性の声を聞いて自分よりも若いのだと思い込んでいたけれど、もしかすると自分よりも年上なのかもしれない。目深にかぶった帽子のつばで影になり、女性の顔はよく見えない。私が近隣住民だと思っていたこの女性は、一体誰なんだろう。私が訝しんだその時、ひゅう、と風が吹いて女性の帽子が空に舞い上がった。夏の空はどこまでも高く、青かった。白い帽子は空に吸い込まれるように高く舞い上がり、そして雲と一つになった。私が庭に目をやった時、女性の姿はもうどこにもなかった。  どこかで、にゃあ、と猫が鳴いた。
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